2013年5月11日土曜日

ミュシャ展

楽しみにしている美術展ほど、なぜか後回しにしてしまう私。もちろん、ショートケーキのイチゴは最後にじっくり味わうタイプです。そこで、今回訪れたのは、始まる前からワクワクしていたミュシャ展。会期終了間近ということもあって、平日の昼間なのに大盛況!先日放映されたNHKの日曜美術館でもクリエイターの箭内道彦氏が絶賛していただけあって、老若男女が列を為し、アールヌーボーの奇才の作品をじっくり味わっていました。

■ 運も才能のうち


チェコ生まれのミュシャの、パリにおけるサクセスストーリーはあまりにも伝説的で、思わず「本当なの?」と言いたくなります。1894年の年末に、休暇中の友人が務める印刷会社で仕事を手伝っていると、ある依頼が舞い込みます。大女優サラ・ベルナールから、新作の芝居のポスターを作って欲しい、というものでした。ところがあいにく、クリスマス休暇でオフィスに残っていたのはミュシャだけ。大至急の依頼に、ミュシャは慌てて仕事に取りかかります。そこで完成したのが、これ。


アルフォンス・ミュシャ 『ジスモンダ』(1894年)



タテ2m余りの大作です。サラはこのポスターを大変気に入り、ミュシャと6年にも及ぶ契約を結びます。ところで、このサラ・ベルナールという女優がいかに大物かというと…

ジョルジュ・クレラン『サラ・ベルナールの肖像』(1876年)
(プティ・パレ美術館/パリ)




…と、こんな具合にまあ、大女優のオーラをむんむん醸し出した肖像画があったりするわけです。この絵はパリのプティ・パレ美術館の目玉作品のひとつでもあり、私がパリで常宿にしている「ル・グラン」のロビーにもレプリカが飾ってあります。(※この絵は今回展示されていません)

ミュシャのアメリカンドリームならぬパリジャンドリーム?(チェコ人ですが…)は、こうして一夜にして叶えられたわけです。しかし、どんなチャンスが舞い込んできたとしても、もしミュシャに才能がなければサラを満足させることはなかっただろうし、120年後の日本の美術館を満員にさせることもなかったでしょう。運も才能のうち、とはよく言ったもので、私はむしろ、才能が運を引き寄せたのだと思います。

■ 椿姫の「椿の色の意味」


続くサラの舞台のポスターです。アレクサンドル・デュマ・フィス(子)の戯曲『椿姫』の舞台で、サラが演じる薄幸の高級娼婦マルグリットと青年アルマンの悲恋はたちまち話題になり、この役はサラの当たり役と言われるようになりました。

ところで、『椿姫』はデュマ・フィス(子)が実際に出会い恋に落ちた高級娼婦マリー・デュプレシとの結ばれぬ愛を描いたもの。彼自身もまた、小説家で同じ名前の父デュマ・フィス(父)とお針子の母マリーとの間に生まれた私生児でした。当時のお針子はほぼ娼婦と同義語とみなされ、身分違いの結婚は許されず、女性は自分を捨てるか子供を捨てるかの二者択一を迫られた時代です(詳しくは3月24日付記事「ルーブル・ランス-自由を探して-をご参照くださいませ)。そんな中で、デュマ・フィス(子)は認知され、教育をうけることができた幸運な私生児でした。


アルフォンス・ミュシャ 『椿姫』(1896年)


さて、この絵にもしっかりと描かれていますが、マグリットが身につけている椿は「白」です。これは、いわば彼女の職業上の営業告知。彼女の椿が「白」であるのは月におよそ25日。5日間だけ椿は「赤」なるのです。もうおわかりですね。「白」ならOK、「赤」は生理でNGという意味です。

■ 何の広告でしょう?


人々が享楽に湧く19世紀末のパリに彗星のごとく現れ、一躍時代の寵児となったミュシャにはさまざまな企業から広告制作の仕事が舞い込んできました。以下は何の広告かわかりますか?




答えはなんと、自転車です! では、次の問題。


答えは、ビスケット。しかもシャンパン風味。シャンパン大好きな私には、そそられる一枚です…。この、ルフェーヴル=ユティル社(LU社)は今もあります。実は日本のポッキーそのままの、その名も「MIKADO(ミカド)」というお菓子を作っています。おそらくポッキーはグリコの登録商標でしょうから、日本的な名前ということで「MIKADO(ミカド)」になったのかも。画像がなくお見せできないのが残念ですが、パリのスーパーや空港でも売っていますので、ぜひ探してみてください。みんな笑ってくれるので、私はよくバラマキ土産に活用しています。(そういえば、なぜかローマのスーパーにも売っていたなあ…)

■ チェコ人としてのミュシャ


パリで成功を収めたミュシャですが、栄光の最中にあるときも常にチェコ人としての誇りを持ち続け、後年はパリを離れ、もっぱら自国の民族自決を訴える作品が多くなります。そこには『ジスモンダ』のきらびやかさや、『椿姫』の明るい色調はなく、長きに亘り異民族に征服、抑圧されてきたチェコ人の苦しみや悲しみが、時には目を逸らしたくなるようなリアリティをもって投影されています。集大成ともいえる『スラブ叙事詩』は、大規模な連作のため今回の展覧会には来ていませんが、華やかなクリエイターとしてのミュシャのみならず、晩年の精神世界を垣間見ることができるのも、今回の見どころのひとつです。


アルフォンス・ミュシャ 『ロシア復興』の習作(1922年)



ミュシャ展 

パリの夢 モラビアの祈り

2013年3月9日(土)− 5月19日(日)    森アーツセンターギャラリー
2013年6月1日(土)− 8月11日(日)    新潟県立万代島美術館
2013年10月26日(土)− 2014年1月5日(日)  愛媛県美術館
2014年1月18日(土)− 3月23日(日)     宮城県美術館
2014年4月5日(金)− 6月15日(土)    北海道立近代美術館

※最新の情報は各施設の公式HPなどでご確認ください。



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