2013年11月24日日曜日

印象派を超えて -点描の画家たち-

あっという間に秋も深まり、ダウンコートを着込む人もちらほら見られる今日この頃。樹木も色づいて、自然が織りなすグラデーションの美しさにしばしため息する季節となりました。


クロード・モネ『サン=ジェルマンの森の中で』(1882年)
(吉野石膏株式会社(山形美術館に寄託))


19世紀のパリも21世紀の日本も、紅葉の美しさは変わらず。


■ 印象派って…?


さて、今回訪れたのは東京・国立新美術館にて開催中の『印象派を超えて』展。ところでこのタイトル、何となく、ああ印象派ね、とスルーしてしまいそうですが、ちょっと待った。よく日本語を咀嚼すると、単に印象派ではなく、印象派を「超えて」展なのです。

では、印象派を超えるとどうなるか。そもそも印象派とは何か。

1874年、パリのカプシーヌ大通りの写真スタジオで、それまで画壇に認められなかった新しい画風を主張する画家たちによって、第一回印象派展は開かれました。メンバーは、ルノワール、モネ、ドガ、セザンヌ、シスレーなど。後世の私たちから見れば、錚々たる顔ぶれです。

「印象派」とは、モネの『印象、日の出』という作品に由来します。デッサンを重視し、モノの形を克明にキャンバスの上に再現することが究極の芸術とみなされていた当時の画壇からすれば、こんなふざけた絵は考えられなかったことでしょう。この作品を見た新聞記者が「これは単なる印象でしかない」と酷評したのが「印象派」という言葉の語源です。

クロード・モネ『印象、日の出』(1872年)
(マルモッタン美術館/パリ)

(※この絵は今回の展覧会では出品されていません)


■ 印象派を超えると…


さて、権威主義的なサロンに対抗する新興勢力である印象派は次第に話題となっていきますが、やがてその中に新たな潮流が生まれます。

後期印象派またはポスト印象派と呼ばれるゴッホや、新印象派といわれるスーラやシニャックの出現です。

そこで、今回の展覧会のテーマにやっと辿り着きました。



ジョルジュ・スーラ『グランド・ジャット島の日曜日の午後』(1884年〜1886年)
(シカゴ美術館/シカゴ)


(※この絵は今回の展覧会では出品されていません)


ジョルジュ・スーラといえば、点描主義または分割主義というスタイルを確立したことでよく知られています。点描とは、面で塗りつぶすのではなく、細かな点によって彩色していく技法です。上の作品も、拡大すると細かな点の集合によって成り立っていることがわかります。


■ 点描主義あるいは分割主義とは




今回の展覧会の図録。


スーラは、初めて科学理論を絵画に取り入れた画家とも言われています。彼は、色は混ぜれば混ぜるほど濁るということを発見しました。

子供の頃の水彩画の時間を思い出してください。綺麗な色の絵の具で描いているはずが、いつの間にか筆洗いの水はドブのような色になっていたでしょう。

パレットで色を混ぜ、それをキャンバスに載せるのではなく、細かな点を並べることによって鑑賞者の網膜上で混色させ、濁りのない、透明感のある色彩の再現を試みたのです。現代のカラーテレビやディスプレイはこの理論に基づくものです。


ポール・シニャック『マルセイユ港の入口』(1898年)
(クレラー=ミュラー美術館/オッテルロー)


スーラと並び点描主義を代表するシニャックの作品。



ポール・シニャック『ダイニングルーム 作品152』(1886〜1887年)
(クレラー=ミュラー美術館/オッテルロー)


ギュスターヴ・カイユボット『昼食』に影響を受けた作品。
『昼食』は現在ブリヂストン美術館で開催中の「カイユボット展」
で見ることができます。(「カイユボット展」については次回をお楽しみに!)
併せて観れば、楽しさ二倍!



マクシミリアン・リュス『鋳鉄工場』(1899年)
(クレラー=ミュラー美術館/オッテルロー)


ぜひ会場で実物をご覧いただきたい作品。
赤々と燃えたぎる炉の鮮やかな迫力を大画面で味わってください。



モーリス・ドニ『カトリックの秘蹟』(1891年)
(クレラー=ミュラー美術館/オッテルロー)


19世紀に入ると宗教画は時代遅れの感がありましたが、
点描という新しいスタイルで表現した珍しい作品です。
身をよじらせた聖母マリアは、『受胎告知』の伝統的なスタイルを彷彿させます。



フィンセント・ファン・ゴッホ『自画像』(1887年)
(クレラー=ミュラー美術館/オッテルロー)


今回の展覧会作品の主な所蔵先であるクレラー=ミュラー美術館は
世界屈指のゴッホコレクションを持つ美術館としても知られています。



フィンセント・ファン・ゴッホ『種まく人』(1888年)
(クレラー=ミュラー美術館/オッテルロー)


ゴッホが敬愛するミレーの『種蒔く人』にインスパイアされた作品。
静謐なミレーの作品に対し、ゴッホの手にかかるとこんなに力強くなります。



フィンセント・ファン・ゴッホ『レストランの内部』(1887年)
(クレラー=ミュラー美術館/オッテルロー)


ゴッホは周囲で流行していた色彩理論を取り入れた作品をいくつか描きましたが、
スーラやシニャックの理論をそのまま取り入れるのではなく、
やがて自分のスタイルを確立していきます。



フィンセント・ファン・ゴッホ『麦束のある月の出の風景』(1889年)
(クレラー=ミュラー美術館/オッテルロー)



徐々に、この木版画のようなゴッホのスタイルになっていきます。



スーラやシニャックが先駆けとなった点描主義あるいは分割主義は、流行にのって彼らの他にも多くの作家を生み出しましたが、徐々に下火になっていきます。もともとは印象派の最大の特徴である「光」をより効果的に演出するための技法だったので、コントラストのはっきりしたドラマチックな作品づくりには不向きであり、表現の多様性に欠けたことが理由のひとつのようです。



ピート・モンドリアン『コンポジション』(1929年)
(クレラー=ミュラー美術館/オッテルロー)


クレラー=ミュラー美術館のあるオランダ出身の画家、
ピート・モンドリアンの作品も来ています。



クレラー=ミュラー美術館所蔵作品を中心に
印象派を超えて—点描の画家たち
ゴッホ、スーラからモンドリアンまで


       2013年10月4日(金)−12月23日(月・祝) 国立新美術館(東京)



      

       

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