2013年9月27日金曜日

ルーヴル美術館のひみつ

子供向けの学習まんがのようなタイトルですが、先日、ちょっと面白いDVDを入手しました。その名も「パリ・ルーヴル美術館の秘密」。

今月23日で閉幕した「ルーヴル美術館展」をご覧になられて、パリのルーヴルに行ってみたいと思った方、または行ったことはあるけれどモナ・リザしかわからなかったという方にはぜひ改めて本場を訪れていただきたいものです。



金曜の夜、館内の「カフェ・リシュリュー」から望むこの景色が最高に好き


◼  映画 「パリ・ルーヴル美術館の秘密」


「パリ・ルーヴル美術館の秘密」は、1990年に発表されたフランスのドキュメンタリー映画です。納められた美術品を解説するものではなく、職員の日常の仕事や複雑を極めた建物の構造に焦点が当てられています。



要塞だった頃の遺跡。地下で見学できます。


所蔵点数35万点、階段の段数1万500段、総部屋数2800室、職員の数1200名(いずれも映画公開当時)。数十キロにも及ぶ回廊はまるで迷路そのもの。中世時代には要塞であり、やがて王宮となり、さらに美術館へと変貌を遂げたルーヴルの、いわばバックヤードを垣間見ることができます。


防犯上の問題もあり、通常は美術館の収蔵庫を一般の人が見ることはほとんど皆無といってよいでしょう。そこを惜しみなく公開しているところがさすがルーヴル。


まあ、なんといってもルーヴルは巨大な迷路ですから、一部を映像で公開したとしてもその部屋に辿り着くことは、ルパンにもキャッツ・アイにも難しいでしょうけど。


全編を通してセリフは少なく、ハイビジョンではないので画像も荒く、はっきりいって興味がない人は3分で眠れます。


しかし、私は「ああっ、ラ・トゥールの『いかさま師』が運ばれてる!」とか「彫刻作品は意外と無造作に保管されているんだなぁ」とか、いちいち感動しながらあっという間の85分でした。


ジョルジュ・ド・ラ・トゥール『いかさま師』(1625年頃)




中庭での職員の消火訓練や、『サモトラケのニケ』の脇を担架隊が駆け抜けていく救急救命講習会の様子、あの建物の中に職員専用のジムがあるのも驚きです。


『サモトラケのニケ』




1200名の職員は、もちろん学芸員だけではありません。あの巨大な謎の館を支えているのは、修復士、消防士、医師、庭師、料理人、清掃人など様々なスペシャリストたちです。


3月22日付の記事「ルーヴル・ランス—新しい可能性—」で「キックボードで館内を回りたい」と書きましたが、なんと本当に地下をローラーブレードで移動している職員を発見!やっぱりね!



◼  なぜ、ルーヴル美術館にはあれほど多くの作品があるのか



それほどまでに広く、謎に満ちたルーヴルですが、最後に学芸員がこんなことを語っていたのが印象的でした。


 —来館者は2時間も回れば歩き疲れるかもしれない。そして作品が多すぎると愕然とする。だが、私はルーヴルは何度でも参照する大きな書物だと思う。だからこそ項目を多くして選択の幅を広げる。観光客のためだけなら、『ミロのヴィーナス』や『モナ・リザ』を一緒に飾れば彼らは満足する。しかし、そうすると歩くのをやめ、知的刺激を得ることもない。だからこそ、数多く展示したいんだ—




名画がひしめき合う「グランド・ギャラリー」。
右隅は授業中。パリの美術館ではおなじみの光景。


すごく神経質で絶対に一緒に仕事をしたくないタイプの学芸員でしたが、いいこと言う!と思わず膝を叩いてしまいました。


ところでこれって、かの「激安の殿堂」のディスプレイ戦略に似てませんか?


宝探しの感覚で、びっしりと商品が並んだ棚を眺めるうちに、こんなものもあったんだ!とか、そうそうこれあると便利なんだよね、とつい予定外の買い物をしてしまう、ペンギンがいるあの店です。


恐るべし、ルーヴル・ビジネス。いや、知ってか知らずかルーヴル・ビジネスを模する結果になった「激安の殿堂」、恐るべし。



注意)「パリ・ルーヴル美術館の秘密」のDVDは現在廃盤です。
   尚、本記事に掲載の写真は映画とは関係ありません。



 

↓ ↓ いつもご愛読ありがとうございます。おかげさまで人気急上昇中です!


人気ブログランキングへ

2013年9月10日火曜日

ルーヴル美術館展 ー地中海 四千年のものがたりー

人には得手、不得手がありますが、私の場合は美術好きといっても絵画に偏ってしまい、その他の分野になると極端に口数が少なくなるという情けない特徴があります。

今回訪れたのはルーヴル展ですが、そのサブタイトルは「地中海 四千年のものがたり」。




ルーヴル所蔵品を扱う場合、さすがにテーマを絞った内容にしないと、大変なことになります。なんといってもルーヴル美術館は所蔵点数38万点以上(2013年9月現在)。そのうち、あの迷子になりそうな館でさえ展示されているのは1割以下というからものすごい数です。

地中海はアフリカ、アジア、ヨーロッパを結ぶ広大な海域で、おまけに四千年も遡るとなると、途方もない話なのですが、メインは古代彫刻や遺跡系だとだいたい想像がつきますね(おそらく絵画はそれほどないということも…)。

モナリザが来るわけでもなく、かといってミロのヴィーナスがくるわけでもない今回の「ルーヴル展」。おそらく寡黙にならざるを得ない予感がするのですが、どんな作品に出会えますことやら...



アルテミス:信奉者たちから贈られたマントを留める狩りの女神
通称「ギャビーのディアナ」(100年頃)


今回のメインビジュアルになっている作品。


しかしなんとまあ、これが西暦100年頃の作品とは驚きです。布や髪の毛、腕の質感といい、そこから人類は1900年余り、何をやっていたんだ…というくらいの完成度です。




アルテミス、というのはディアナ(英語読みでダイアナ)と同一人物で、月と狩猟をつかさどる女神です。ギリシャ名がアルテミス、ローマ名がディアナ、となります。(まったく古代の神々はいちいちギリシャ名とローマ名があってわかりにくい…)

ルーヴルのアルテミス(ディアナ)といえば…


フォンテーヌブロー派『狩人としてのディアナ』(1550〜60年頃)

(※この作品は今回展示されていません)


ついこの作品を思い浮かべてしまうのですが。これは、フランス国王アンリ2世の愛人ディアーヌ・ド・ポワティエがモデルと言われています。ディアーヌはアンリ2世より20歳も年上だったというから驚き。初めて出会ったのが国王8歳、ディアーヌは27歳の人妻でした。名前はダイアナですが、カミラそのものという感じ。


ジャン=バティスト・カミーユ・コロー
『ハイディ:ギリシアの若い娘、イギリスの詩人バイロン卿による『ドン・ジュアン』の登場人物』(1870年〜72年頃)


古代遺跡コーナーを抜け、やっと親近感が湧いてきました。


イギリスでは18世紀に入ると、若い知識人や芸術家、富裕層の子息が新しい見聞を広めるためにヨーロッパ各地を巡る「グランド・ツアー」が流行しました。この贅沢な修学旅行は彼らをイタリアやギリシア、はたまたオリエントまで導き、思い出と共に各地の珍しい品を故郷に持ち帰りました。

スイス人画家リオタールもイギリス人外交視察団に同行し、16世紀から17世紀にかけて勢力を伸ばしていたオスマン帝国の魅力に取り憑かれ、滞在したコンスタンティノープルのトルコ人や外国人居住者の肖像画を数多く描きました。



ジャン=エティエンヌ・リオタール『トルコ風衣装のイギリス商人レヴェット氏と、クリミアの元フランス領事の娘グラヴァーニ嬢』(1740年頃)


お金持ちのコスプレごっこ(?)
それにしても、この長いわりに工夫のない作品名はどうにかならなかったものか。


そこから1世紀を経て、ドラクロワがアルジェやモロッコの風俗に触発されていわゆるオリエンタリズムとよばれる作品を多く残しましたが(7月9日付記事『ハノイ歴史博物館』をご参照くださいませ)、そのドラクロワの影響を強く受けたのが、シャセリオーです。


テオドール・シャセリオー『モロッコの踊り子たち:薄布の踊り』(1849年)





テオドール・シャセリオー『バルコニーにいるアルジェのユダヤ女性たち』(1849年)


今回の一番のお気に入り作品。


絵をずっと見続けていると、知らない画家が出てきてもその時代や作風が、知っている画家に似ていると気づくようになります。そこで調べてみるとやはり影響を受けていたとか、そのような気づきがあるのもまた絵画を見る愉しみでもあります。

シャセリオーの作品を初めて見たのはオルセー美術館でしたが、はじめはアングルの作品(3月20日付記事『ルーヴルの美女』をご参照くださいませ)かと思いました。ところが、別の作品を見ると、ドラクロワっぽい。そこで新古典主義からロマン主義へ鞍替えした形跡が見てとれるわけです。

まあ、ややこしい話はそこまでにしておきましょう。



パリのルーヴルは何度も訪れており、絵画のまわり方に関しては本が書けそうなくらい詳しいのに、いつもそこで時間を費やしてしまい、なかなか古代のコーナーまでたどりつかない私。おまけに気まぐれで古代コーナーに踏み入れると、急に方向感覚が狂いだし、行けども行けども同じ像の前に出てきてしまうという奇妙な現象が起こるのです(「ファラオの呪い」と私は勝手に呼んでいる)。

今回は、彫刻、工芸、絵画、素描・版画、古代オリエント、古代エジプト、古代ギリシア・エルトリア・ローマ、イスラームの8つの部門すべてからの出品で、広く浅く、という感じではありますが、つかみどころのない巨大なルーヴルの一部を垣間見るにはよい機会だと思います。




ルーヴル美術館展
- 地中海 四千年のものがたり -

          2013年7月20日(土)−9月23日(月・祝) 東京都美術館
 
                   http://louvre2013.jp





↓ ↓ いつもご愛読ありがとうございます。おかげさまで人気急上昇中です!


人気ブログランキングへ