2013年3月28日木曜日

ルーヴル・ランス -生命の真実-

■ なぜかいつもいない


さて、次なる目玉作品ダ・ヴィンチの『聖アンナと聖母子』を探しにいきましょう!

あ、その前に…


ダ・ヴィンチの『聖アンナと聖母子』は確かにここ2年ほどパリのルーヴルでお目にかかれず、いったいどこにいったものかと思っていたのですが、今年1月に行った際、大ピラミッド下のホールにはこんな垂れ幕が。

















どこにもランスと書いていないので一見、わかりにくいのですが、これがランスで行われている特別展「ルネサンス」で、この『聖アンナと聖母子』がここに展示されていることを示しています。


おお、ありました。「ルネサンス」展!


















あれかな?


















いました!
レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』(1510年頃)











確かに色鮮やかに甦りました!残念ながら修復前の写真は持っていないのですが、青い衣の透明感や、空の青さ、赤の鮮やかさが見違えるようになりました。油彩画はニスを塗って仕上げているのですが、そのニスが時間の経過とともに黄ばんできます。その他、絵の具の剥落など、古い絵はどうしても定期的な修復が必要となります。

さて、この中央の女性は誰か、もうみなさんはお分かりですね。青×赤の衣装と言えば、聖母マリアです。ということは、抱いている愛らしい子供はイエス・キリストでしょうか。その通り。子供は羊を抱えています。羊はキリストのアトリビュートの一つで、受難の象徴といわれています。

そして、もうひとりの女性は聖母マリアの母、聖アンナです。この聖アンナも無原罪のうちに聖母マリアを宿したといわれています。(アトリビュートや無原罪については3月21日付記事「エル・グレコ展」をご参照くださいませ)

■ ダ・ヴィンチの絵の謎


それにしても、いささか不自然な姿勢の親子三世代の絵です。聖母マリアに比べ聖アンナが絵画に登場することは、そう多くないのですが、不思議なことに眺めているうちに神々しい聖人たちというよりも、ごく普通のおばあちゃん、お母さん、赤ちゃん、というふうに見えてきませんか?

ダ・ヴィンチは私生児として生まれ、まだ幼いうちに母親と引き離されてしまったため、母性に対して強いコンプレックスをもっていたといわれています。欲しくて欲しくてたまらなかったけれど得られなかった親子の愛を作品に投影したのだと思えてなりません。

また、聖アンナの足下には胎児と胎盤の一部が小石のかたちになぞらえて描き込まれているといわれています。カトリックの厳しい教義の中では、聖母マリアは無原罪のうちにイエスを宿したという教えが絶対ですから、子宮を介して受け継がれていく生命、なんていう考えはもってのほかでした。しかし、解剖学に精通していた万能の天才ダ・ヴィンチは、生命の真実の営みをここに密かに表現したかったのかもしれません。


■ ルーヴル・ランスのランチタイム


これだけの施設でありながら、また美食大国フランスともあろうに…飲食ができるのは、カフェテリアがひとつあるのみ。残念すぎて、写真もない。でも、「あ〜、なんか落ち着く」と一瞬思ってしまったのは、そこがあまりにも母校のカフェテリアにそっくりだったから。というわけで、メニューはサンドイッチやヨーグルト、フルーツ、とか、そんなのばっかり。

おまけに外には本当に何にもないので、皆がそこに集中するわけで、お昼時は長蛇の列&席取り合戦。私の場合は、親切な老夫婦が席を譲ってくれたのでラッキーでした。しかし彼らは英語がまったく通じず、最初は意地悪をされているのかと思ったら、私のための席を取っておいてくれたのでした。パリでは、フランスもずいぶん英語が通じるようになったもんだと思っていたのですが、必ずしもそうではないんだなと思ったのと、言葉はわからなくても思いやりは通じるものだと、様々な思いが錯綜し咄嗟に「グラッチェ」と言ってしまったアホな私でした。

大学のカフェテリアじゃなくて、絵を見たあとの余韻にひたれるような素敵なレストランがあればいいのになあ…。

■ ルーヴル・ランスから、帰り方


さて、帰りの電車の時間が近づいてきました。行きは分からなかったけれど、帰りこそシャトルバスに乗ってやる!と気合いと根性で探した甲斐があって、シャトルバス乗り場を発見。出口を出て遊歩道左手に見えるロータリーの中にバス停がありますので、行かれる方はぜひ活用をおすすめいたします。15〜20分に1本程度あるはずです。歩くよりずっと楽に帰れます。

そろそろ、パリの喧噪が恋しくなってきました。



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2013年3月24日日曜日

ルーヴル・ランス  -自由を探して-

■ 革命は革命でも「7月革命」


長い道のりを経て、ようやくこの作品に再会できました!


ウジェーヌ・ドラクロワ『民衆を導く自由の女神」(1830年)



よく誤解されるのですが、この絵のテーマはルイ16世やマリー・アントワネットをギロチンにかけたあの革命ではなく、それからおよそ40年後の1830年のフランス7月革命です。

7月革命とは、ナポレオンの失脚後、王政復古で国王の座に就いたシャルル10世が、1789年のフランス革命以前の王侯貴族社会に戻そうとした政策に、民衆が蜂起し国王を追放した革命のことです。


…むずかしい話はそれくらいにして、絵を見てみましょう。

■ 女神の正体


おびただしい屍が転がる血なまぐさい情景です。仲間の屍を乗り越えて、それでも前に進む、労働者、ブルジョワ、軍人たち。しかし何といっても私たちの目を惹くのは、胸もあらわに三色旗を掲げ、民衆を導く女性の姿ですよね。暗い画面の中で、彼女だけ後光が射したかのように光に包まれています。でもちょっと、こんな女性がこんな場面にいるのは不自然だと思いませんか?


実は、彼女はこの場面には存在していないのです。


彼女が被っている赤い帽子はフリジア帽といって、ローマ時代の彫刻にも見られるもので、奴隷の身分から解放された「解放奴隷」の身分を表しています。「女神」と一般には言われていますが、彼女の正体は、実は女神風に描かれた「自由」そのものなのです!

抽象的な概念(ここでは「自由」)をモノや人で表された絵を「寓意画」と呼びます。ドラクロワは革命を目の当たりにし、さまざまな人に取材を行って描き上げたといいますから、この絵は寓意だけで成り立っているわけではありません。しかし、この女神風の「寓意像」を置くことによって、写実だけでは表現し切れないメッセージを伝えることに成功していると思います。

ドラクロワは、政府高官の子息として何不自由ない環境に生まれましたが、本当の父親は大政治家、シャルル・タレイランではないかといわれています。タレイランは非常に有能かつ狡猾、ゆえにいくつもの政権で要職を牛耳る息の長い政治家でした。(いるよね〜、こういう人)

家柄と才能に恵まれたドラクロワでしたが、サロン(政府が主催する大規模な展覧会)では、常に批判にさらされていました。当時のサロンの主流はアングルを中心とする新古典主義(3月20日付「ルーブルの美女」をご参照くださいませ)。デッサンの緻密さよりも色彩の効果や主題に重きをおいたドラクロワのロマン主義は真っ向から否定されていました。女神の足下からすがるように見上げるトリコロールの青年は、サロンに批判され打ちのめされていたドラクロワ自身ではないかといわれています。

実際にこの作品も、政府の買い上げになったものの(画壇で批判されていようがなんといっても彼は政府高官の子息ですから)、反政府思想を煽る危険な絵として長らく倉庫に放置されたままでした。ドラクロワがフランス美術アカデミーの会員になるのは、なんと57歳になってからのことです。

■ 「レ・ミゼラブル」


公開13週目(2013年3月17日時点)に入っても尚ロングランを続けている映画「レ・ミゼラブル」。言わずと知れたミュージカルの傑作です。原作者ヴィクトル・ユゴーは、この絵の右端の少年をモデルに、物語に小さな少年兵を登場させました。

ミュージカルは何度も見ていますので、軽い気持ちで私も劇場に足を運びましたが、見終わったあとしばらく動けないほどの感動。アカデミー作品賞、主演男優賞こそ逃しましたが、やはり助演女優賞を獲得したアン・ハサウェイの演技は素晴らしかった。あの時代、闘っていたのは男ばかりではなく、女性も差別と貧困に苦しめられていたのだとわかります。

映画や舞台には描かれていない、アン・ハサウェイが演じたフォンテーヌのお話を少ししましょう。

ナポレオンの百日天下が終わり、ルイ18世(ルイ16世の弟)の第二次王政復古の時代には軍歴ではなく学歴が重視されるようになりました。パリの学生街カルチェ・ラタンには地方の名士の子息たちで溢れ、呑気な学生たちは、グリゼットと呼ばれた下層階級の若い女工たちを恋人にして青春を謳歌していました。フォンテーヌもその中の一人です。ある夏の日、フォンテーヌの恋人は突然、親元に帰る、という手紙を残して去ってしまいます。ところが不幸なことに、そのとき彼女は子供を身ごもっていました。

身分制度が厳しかった当時において、中流階級以上の学生が下層階級のグリゼットと結婚することは事実上不可能でした。したがって、19世紀前半の都市部では5人に1人、兵営や工場のある街では3人に1人が私生児という状況。

そのような不幸な女性たちは遅かれ早かれ子供を捨てるか、自分を捨てて娼婦になるか、選択を迫られる運命にありました。娼婦の前の職業は、そのほとんどが、主人に孕まされたあげく追い出された女中か、学生や兵士に捨てられたグリゼットだったといいます。

アン・ハサウェイはアカデミー授賞式のスピーチをこう締めくくりました。
「いつの日か、フォンテーヌのような不幸な女性がいなくなることを祈っています」

先日、知人が妊娠しました。産前産後の各種制度を利用するために会社に申請をしたら、「まずは入籍をしてください」と返されたそうです。時代が流れ、技術が進化して一見、豊かに見える現代でも、様々な差別や偏見、貧富の差といった社会が抱える問題は19世紀と何一つ変わっていないのだと私もつくづく思います。


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2013年3月23日土曜日

ルーヴル・ランス -事件のその後-

■ ルーヴル・ランスの大事件


さてさて、ようやくたどり着いたルーヴル・ランス。
















その日は日曜日でしたが、入口で数分並んだものの、それほど混雑はなく入場できました。(さすがにここまで来るには観光客だけでなくフランス人でも多少の気合いと根性が必要か…)

今回オープニングの目玉としてドラクロワの『民衆を導く自由の女神』と、2年の修復を終えてお披露目となるダ・ヴィンチの『聖アンナと聖母子』がパリのルーヴルからきています。まずそれらがどこにあるのか気になります!

その前に、ちょっとした不安がありました。日本を出発する直前に、この美術館で大事件が起こったのです。

2013年1月7日、来館者の女性が、なんと『民衆を導く自由の女神』に油性ペンで意味不明の落書きをしてしまったのです!これは日本の新聞にも載っていたのでご存知の方もいらっしゃるはず。幸いインクが奥にまで達しておらず、すぐに修復作業を行ったため作品は無事だったとメディアにはありましたが、果たして本当に展示されているのでしょうか?

ちなみに逮捕されたこの女性に対する刑罰は、最高で実刑7年と10万ユーロ(約1200万円)の罰金が課せられるそう。フランス国民が自らの手で自由と平等を勝ち取った栄光の3日間を象徴する名画が、(仮に大事にはいたらなかったとしても)傷つけられた代償として、これを重いと見るか、軽いと見るか?


■ 企画展と常設展


作品がどうなっているのかドキドキしながらチケット売場のお姉さんに尋ねたところ、『民衆を導く自由の女神』は常設展に、『聖アンナと聖母子』は企画展にあることが判明。

そう、ここには常設展と特別展があるのです。常設展には、大ギャラリー(Grande galerie)とパヴィヨン・ド・ヴェール(Pavillion de verre)という2つのエリアがあり、いずれも2013年末まで無料というのがうれしい。しかし企画展は9ユーロ(2013年2月時点)かかります。

ほっと胸をなでおろしながらも、ふと、待てよ。よく考えると2点ともタダでは見せないようになっている。うまいことやるよね〜。さすが、ルーヴル・ビジネス。でもここまできたら、当然両方行くでしょ〜!と鼻息を荒くしてチケットを購入。

ありました、常設展!
















中に入るとこんな感じ。これが大ギャラリーです。
















パリのルーヴルとはぜ〜んぜん違う雰囲気。


ラファエロ『バルダッサーレ・カスティリオーネの肖像』(1514年-1515年)
も来ています。


















あっ、ついに発見!一番突き当たりにありました。


しかし、やはりこんなことになってました…

















パーテーションが立てられ、左右には警備員が。

それでは次回、じっくりとこの名画を鑑賞いたしましょう☆



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2013年3月22日金曜日

ルーヴル・ランス -新しい可能性-

■ ルーヴル・ランスへ


先月、ついに念願のルーヴル・ランスに行ってまいりました!




ルーヴル・ランスは、パリのルーヴル美術館の別館として、フランス北部のノール=パ・ド・カレー地方の都市ランス(Lens)に昨年12月にオープンしたばかり。日本人の建築ユニットSAANAが設計を手がけたことでご存知の方も多いはず。ちなみにこのランス(Lens)は、大聖堂とかシャンパンとかで有名なシャンパーニュ地方のランス(Reims)とは違いますのでご注意を。


■ 「時のギャラリー」




この新しいルーヴル・ランスのコンセプトは「時のギャラリー」。パリのルーヴルから選cばれた古代ギリシャ・エジプト時代から19世紀までの作品が、200点あまり展示されています。毎年約2割が入れ替えられ、5年で総入れ替えになるという仕組み。

なぜ、こんなことになったかというと…

パリのルーヴルは収蔵作品数38万点以上。館内をキックボード(古い?)で回りたいくらい広大な美術館なのに、そのうち展示されているのはわずか10分の1以下の3万5千点あまり。新しいコレクションも増やし続けて進化させていかなければならないわけで、いくら常時世界中に作品を貸出していたとしても、ついに飽和状態になってしまったのです。

■ ルーヴル・ランスへの行き方


しかし、遠い!!
ランスに行こうと決めたのは1月。まだ情報が少なく(もしかしたら今も…)、パリ北駅からTGVで1時間ちょっとという情報は得たものの、TGVの時刻表を調べてみると、ランス行きは一日数本しかなく、しかも乗り継ぎが多いのです。

乗り継ぎだと2時間以上かかるらしく、これは何が何でも直行便に乗らねば!と気合いで探し、パリ北駅9:52発の列車の席をゲット。帰りも直行でランス14:57発という席が手に入ったので、ラッキーでした。TGVのチケットは日本からWebで予約、発券できますので、これから行かれる方はぜひ活用してみてください。(列車の時刻は2013年2月時点です)


http://www.raileurope-japan.com/rail-products/train-tickets/article/tgv-790?cmpid=PS020401&gclid=CNLp2dqWi7YCFadMpgodcSIA5g


駅からがこれまた遠いのですが、一応シャトルバスが出ています。20分位の間隔で運行されているのですが、乗り場がわからず結局歩くハメに。びっくりするほど何にもないところを延々と歩くことおよそ25分。ようやく建物がみえてきましたよ〜。








歩く距離は長いのですが、まっすぐな遊歩道が延々と続き、他に何にもないので方向オンチの私でも迷いようがなかったのが、せめてもの救いでしょうか…。

そこで何を見たかは、また次回!


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2013年3月21日木曜日

エル・グレコ展

■ 世界三大名画って?


世界三大名画といわれている作品をご存知でしょうか。
いつ誰が決めたのか定かではありませんが、一応そういわれているのが次の三つの作品です。


その① ディエゴ・ベラスケス『ラス・メニーナス』(1656年)
    (プラド美術館/マドリード)





















その② レンブラント・ファン・レイン『夜警』(1642年)
    (アムステルダム国立美術館/アムステルダム)


















その③ エル・グレコ『オルガス伯爵の埋葬』(1586年-1588年)
    (サント・トメ教会/トレド)





















ここにダ・ヴィンチの「モナリザ」が入るとか入らないとか、諸説あるようですが、
今回は、世界三大名画の一角を担う画家、エル・グレコの作品の中から、現在開催中(2013年3月21日時点)の「エル・グレコ展」に出展されている作品をご紹介します。




エル・グレコ『無原罪のお宿り』(1607年−1613年)
(サン・ニコラス教区聖堂(サンタ・クルス美術館寄託)/トレド)





■ アングル的手法


なんと、高さ3m越え!という巨大な作品です。
しかし、あれれ?こうして正面から見てみると、なんだかおかしな気がしますね。
中央に立つ女性の身体が異様に引き延ばされているではありませんか。

これはまさに、アングル的手法!(3月21日分「ルーブルの美女」ご参照くださいませ)
その通り。なぜ引き延ばされて描かれているかというと、この作品のサイズに注目。
これは元々、教会の礼拝堂を飾るために依頼を受けてグレコが制作したものです。

つまり下から見上げて鑑賞することを前提に描かれたのです。
極端に構図を引き延ばすことによって、画面上部の天井の光に吸い込まれていくような動きを与えることができます。

しかし作品が制作された年代をみると、こちらの方がアングルより古い時代に描かれていますから、視覚的効果を狙って意図的に対象物を引き延ばしたり(時には縮めたり)、という手法はかなり前から存在していたようです。(ダ・ヴィンチの「受胎告知」(1472年-1475年)にもそのトリックが隠されています。)


■ この人は誰?


さて、こんなにも引き延ばされちゃったこの人は、誰でしょう。

古典的な西洋絵画には決まりごとがあって(むしろ決まりごとばっかり)、衣服の色や持ち物によって、鑑賞者はそれが誰であるかを特定することができます。いや、特定できるように描かなければならなかったのです。

持ち物は、アトリビュートまたは持物(じぶつ)とも言います。聖母マリアの衣服は赤×青、もしくは青と決められていますので、このお方はイエス・キリストの御母、聖母マリアであるとわかります。


■ 同じ題名の絵がある謎


ところで、この絵のタイトル『無原罪のお宿り』は、他でも耳にしたことがあるかもしれません。聖書に基づいたキリスト教絵画や神話をモチーフにした絵画の場合、同じテーマを複数の画家が描いていることがよくあります。ちなみに、無原罪とは、人間の男女の性的な営み(=原罪)なしにイエス・キリストを宿した聖母マリアの、生まれながらの聖性を讃えるカトリックの教義のことです。


バルトロメ・エステバン・ムリーリョ『無原罪の御宿り』(1660年-1665年)
(プラド美術館/マドリード)



『無原罪の御宿り(お宿り)』といえば、この絵を思い出す人も多いでしょう。実はムリーリョもこのテーマで様々なバージョンを製作しています。


■ 怖い天使


さて、もう一度エル・グレコの絵に戻りましょう。聖母マリアの頭上に輪ができています。よ〜く見ると、小さい顔がびっしり。しかも身体がなくて顔に羽根が生えてる〜!こ、こわい。



このおびただしい顔、顔、顔の正体は、なんと天使なのです!
しかもかなり位の高い天使。
天使の世界は階層社会で、なんと9段階もの階層があります。


下から順に①エンジェルズ(天使)→②アークエンジェルズ(大天使)→③プリンシパリティーズ(権天使)→④パワーズ(能天使)→⑤ヴァーチューズ(力天使)→⑥ドミニオンズ(主天使)→⑦トロウンズ(座天使)→⑧ケルビム(智天使)→⑨セラフィム(熾天使)となります。


みなさんがどこかで耳にしたことのあるガブリエル、ラファエル、ミカエル、といった天使たちは②のアークエンジェルズです。


絵画においては①〜③の下級天使が圧倒的に登場回数が多く、特にアークエンジェルズは人前に登場する機会が多いせいか、人間の姿に羽根が生えた格好で表現されることが多いのが特徴です。だとすると、エル・グレコの絵の画面下にいる天使はアークエンジェルであるとわかります。(④〜⑥のいわば中間管理職はあまり絵画には登場しません)


上級天使のなかでも天使界のトップに君臨する⑧ケルビムや⑨セラフィムは、神に近い存在とされています。そのため、その姿が人間と同じであってはいけないのです。


よって、顔に羽根が直接生えた、なんとも奇妙な姿で描かれます。(ちなみに、ケルビムとセラフィムは描き分けられることがないため区別がつかないのも特徴です)


迫力の大作を、ぜひみなさんも堪能してみてはいかがでしょうか。


エル・グレコ展

4月7日(日)まで 東京都美術館にて
9:30~17:30( 金曜は20:00)入室は閉室30分前まで 月曜休館
最新の情報は、http://www.el-greco.jp/index.htmlにてご確認ください。



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2013年3月20日水曜日

ルーヴルの美女

さて、言わずと知れた美の殿堂、パリのルーヴル美術館には沢山の美女がいます。
ルーブルの美女、といえばまず挙げたくなるのがダ・ヴィンチの「モナリザ」かもしれませんが、私の場合、ちょっと違うのです。

陶器のように滑らかな肌、背中の美しさを強調するかのように捩った体躯、誘うような、微かに憂いを含んだ瞳。どこからともなく薫香が辺り一面に漂い、頭に巻いたターバンや、手に持った孔雀の羽根が、異国の未知の女であることを匂わせ、なんともそそられます(って私は男か)。

そう、この美女の住処が、ドミニク・アングル作『グランド・オダリスク』(1814年)


図々しくも、私がプロフィールで使わせていただいている美女でございます。
私はルーブルを訪れる度に、この美女に必ず会いにいきます。
まさに「美女詣(もうで)」。

オダリスク、とはトルコの後宮(つまりハーレムですね)に仕える女性のこと。
あらためて、オダリスクという言葉を辞書で調べてみると、「女奴隷、または寵姫」とあります。女奴隷と寵姫は真逆のようですが、いずれも君主の性の奴隷ということですね。

しかしこの美女、キレイなんだけど何かがおかしい。
腰が異常に長いような。伸びた腕も肘の骨張った部分がなく、ゴムのように長い。
これはアングルが、この体躯の美しさを強調するためにわざと取り入れた構図です。

デッサンの正確さに最も重きを置いたアカデミックな画家が、このような大胆な仕掛けをするとは。当然、当時の画壇からは酷評を受けますが、こうした試みは、(皮肉にも?)後の印象派にも影響を与えたといわれています。アングルは印象派誕生前夜に亡くなりますが、後のセザンヌ、マティス、ピカソの絵を見たら、この人は怒り狂って卒倒したんじゃないかと思うのですが。

ちなみに、この絵はナポレオンの妹でナポリ王妃になったカロリーヌ・ミュラが注文したものです。結局、彼女の手に渡ることはありませんでしたが、華やかなものを愛したカロリーヌが官能的で美しい女性の絵に魅了される気持ちは分かる気がします。



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2013年3月19日火曜日

天使の翼

はじめまして。
angeaile と申します。

少々読みにくい名前ですが、記号のようなものなので、好きに読んでいただいて構いません。この名前は、私が不定期で主催している色と香りのサロン「SALON DE ANGEAILE」に由来しています。angeaile は造語で「天使の翼」を意味します。この「天使の翼」が私の日常に様々な奇跡を起こしてくれるのですが、そのお話はまた別の機会にゆっくりと。

私にとって色の世界の入口は美術館でした。
画家志望だった父に連れられ、子供の頃の日曜日はいつも家族で美術館。
油絵具の重厚な匂いと、大人の足しか見えない混雑した美術館は、子供にとっては恐怖そのものでしたが、いつしか様々な色彩に溢れたその空間がとても居心地のよいものになっていたのでした。

色彩の空間を堪能するうちに、それぞれの絵について「どんな意味があるのだろう」「画家はなぜこの絵を描いたんだろう」と考えるようになりました。旅行に行く時に、何も知らずに行くよりも、その土地の名所の由来や美味しいレストランなど、事前に情報があったほうが楽しめますよね。

「美術館で絵を楽しめるようになりたいけれど、何から手をつければいいかわからない」そんな方がもしいらっしゃいましたら、絵を楽しむちょっとしたコツをこれからご紹介します。そして、いつしかあなたに小さな奇跡を起こす「天使の翼」が舞い降りますように。



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