2013年9月10日火曜日

ルーヴル美術館展 ー地中海 四千年のものがたりー

人には得手、不得手がありますが、私の場合は美術好きといっても絵画に偏ってしまい、その他の分野になると極端に口数が少なくなるという情けない特徴があります。

今回訪れたのはルーヴル展ですが、そのサブタイトルは「地中海 四千年のものがたり」。




ルーヴル所蔵品を扱う場合、さすがにテーマを絞った内容にしないと、大変なことになります。なんといってもルーヴル美術館は所蔵点数38万点以上(2013年9月現在)。そのうち、あの迷子になりそうな館でさえ展示されているのは1割以下というからものすごい数です。

地中海はアフリカ、アジア、ヨーロッパを結ぶ広大な海域で、おまけに四千年も遡るとなると、途方もない話なのですが、メインは古代彫刻や遺跡系だとだいたい想像がつきますね(おそらく絵画はそれほどないということも…)。

モナリザが来るわけでもなく、かといってミロのヴィーナスがくるわけでもない今回の「ルーヴル展」。おそらく寡黙にならざるを得ない予感がするのですが、どんな作品に出会えますことやら...



アルテミス:信奉者たちから贈られたマントを留める狩りの女神
通称「ギャビーのディアナ」(100年頃)


今回のメインビジュアルになっている作品。


しかしなんとまあ、これが西暦100年頃の作品とは驚きです。布や髪の毛、腕の質感といい、そこから人類は1900年余り、何をやっていたんだ…というくらいの完成度です。




アルテミス、というのはディアナ(英語読みでダイアナ)と同一人物で、月と狩猟をつかさどる女神です。ギリシャ名がアルテミス、ローマ名がディアナ、となります。(まったく古代の神々はいちいちギリシャ名とローマ名があってわかりにくい…)

ルーヴルのアルテミス(ディアナ)といえば…


フォンテーヌブロー派『狩人としてのディアナ』(1550〜60年頃)

(※この作品は今回展示されていません)


ついこの作品を思い浮かべてしまうのですが。これは、フランス国王アンリ2世の愛人ディアーヌ・ド・ポワティエがモデルと言われています。ディアーヌはアンリ2世より20歳も年上だったというから驚き。初めて出会ったのが国王8歳、ディアーヌは27歳の人妻でした。名前はダイアナですが、カミラそのものという感じ。


ジャン=バティスト・カミーユ・コロー
『ハイディ:ギリシアの若い娘、イギリスの詩人バイロン卿による『ドン・ジュアン』の登場人物』(1870年〜72年頃)


古代遺跡コーナーを抜け、やっと親近感が湧いてきました。


イギリスでは18世紀に入ると、若い知識人や芸術家、富裕層の子息が新しい見聞を広めるためにヨーロッパ各地を巡る「グランド・ツアー」が流行しました。この贅沢な修学旅行は彼らをイタリアやギリシア、はたまたオリエントまで導き、思い出と共に各地の珍しい品を故郷に持ち帰りました。

スイス人画家リオタールもイギリス人外交視察団に同行し、16世紀から17世紀にかけて勢力を伸ばしていたオスマン帝国の魅力に取り憑かれ、滞在したコンスタンティノープルのトルコ人や外国人居住者の肖像画を数多く描きました。



ジャン=エティエンヌ・リオタール『トルコ風衣装のイギリス商人レヴェット氏と、クリミアの元フランス領事の娘グラヴァーニ嬢』(1740年頃)


お金持ちのコスプレごっこ(?)
それにしても、この長いわりに工夫のない作品名はどうにかならなかったものか。


そこから1世紀を経て、ドラクロワがアルジェやモロッコの風俗に触発されていわゆるオリエンタリズムとよばれる作品を多く残しましたが(7月9日付記事『ハノイ歴史博物館』をご参照くださいませ)、そのドラクロワの影響を強く受けたのが、シャセリオーです。


テオドール・シャセリオー『モロッコの踊り子たち:薄布の踊り』(1849年)





テオドール・シャセリオー『バルコニーにいるアルジェのユダヤ女性たち』(1849年)


今回の一番のお気に入り作品。


絵をずっと見続けていると、知らない画家が出てきてもその時代や作風が、知っている画家に似ていると気づくようになります。そこで調べてみるとやはり影響を受けていたとか、そのような気づきがあるのもまた絵画を見る愉しみでもあります。

シャセリオーの作品を初めて見たのはオルセー美術館でしたが、はじめはアングルの作品(3月20日付記事『ルーヴルの美女』をご参照くださいませ)かと思いました。ところが、別の作品を見ると、ドラクロワっぽい。そこで新古典主義からロマン主義へ鞍替えした形跡が見てとれるわけです。

まあ、ややこしい話はそこまでにしておきましょう。



パリのルーヴルは何度も訪れており、絵画のまわり方に関しては本が書けそうなくらい詳しいのに、いつもそこで時間を費やしてしまい、なかなか古代のコーナーまでたどりつかない私。おまけに気まぐれで古代コーナーに踏み入れると、急に方向感覚が狂いだし、行けども行けども同じ像の前に出てきてしまうという奇妙な現象が起こるのです(「ファラオの呪い」と私は勝手に呼んでいる)。

今回は、彫刻、工芸、絵画、素描・版画、古代オリエント、古代エジプト、古代ギリシア・エルトリア・ローマ、イスラームの8つの部門すべてからの出品で、広く浅く、という感じではありますが、つかみどころのない巨大なルーヴルの一部を垣間見るにはよい機会だと思います。




ルーヴル美術館展
- 地中海 四千年のものがたり -

          2013年7月20日(土)−9月23日(月・祝) 東京都美術館
 
                   http://louvre2013.jp





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2 件のコメント:

  1. いつも楽しく拝見させて頂いてます。

    そして、実は趣味趣向を変えたテーマも素人のこちらは期待してます。

    例えば…。
    ご紹介頂いてる美術品や骨董品に対する「保険」と言うのは一体どうなってるんでしょうかね。。。
    ルーブル美術館の展示品は全体の凡そ1割程度と言うことですが、残りの9割はどこに(地下、と言うのは知ってますが…)、どのように(湿気対策?害虫対策?)保管されてるんですかね。
    不届き者が絵画や美術品を故意に破壊したりすれば、どうなってしまうんでしたっけ…。
    そもそも、美術館の中の警備は毎度の事ながら相当に性善説に偏った体制になっているような気がして、実は見てるこちら側がヒヤヒヤしてます。

    その辺りの解説も「閑話休題シリーズ」で教えて頂けると嬉しいですね。

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  2. うわ〜!エキサイティングなご質問&ご提案、ありがとうございます!

    保険の問題に関して言えば、例えば今回のルーヴル展のように日本でメジャーな美術展が催されるとき、多くの場合、協力協賛各社として保険会社(またはこれに代わる金融会社)、航空会社、運送会社のクレジットが見られるように、美術品を管理する上では欠かせない要素です。

    世界的にも、美術品の盗難は深刻な問題で、国際警察(=インターポール、銭形警部がいるアレです)は、麻薬、殺人に次いで美術品の盗難を重要視しています。美術品が盗まれた場合、警察は犯人を追い、保険会社は作品を追うことになります。

    盗難までいかなくとも、美術品を故意に傷つけた場合、記憶に新しいところでは今年1月にルーヴル・ランスに展示されていたドラクロワの作品にサインペンで落書きをした女性は最高で実刑7年、罰金10万ユーロ(約1300万)を課されるそうですから、大変なことです。

    ご指摘の通り、特に海外の美術館ではこちらが心配になるような警備体制に見えるところもありますよね。

    このあたりの小話も、ぜひ盛り込んでいきますので、お楽しみに☆

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