2013年7月14日日曜日

プーシキン美術館展

これまでの行いを反省し、会期が始まったらなるべく早めに行こうと向かったのは横浜美術館。猛暑のうだるような熱気を一身に浴びて、ロシアが誇る珠玉の名作を堪能してきました。


ランドマークタワーを見上げる横浜美術館


■ 待ちに待ったプーシキン美術館展


実は今回のプーシキン美術館展は、2011年4月に開催されるはずでした。ところが、東日本大震災の影響で延期となってしまったのです。大切に保管していた幻の割引券2種がここにあります。(しかし500円も割引になるなんてスゴい券だ…)




■ 癒し系か、美魔女か


今回の目玉作品のひとつであるルノワール『ジャンヌ・サマリーの肖像』。何とも愛らしい笑顔に癒されます。背景と彼女の頬を彩るピンクの効果も相まって、幸福感に満ちあふれた作品です。ルノワールがまだそれほど知られていない頃の作品ですが、ジャンヌ・サマリーはコメディ・フランセーズの超売れっ子舞台女優でした。


ピエール=オーギュスト・ルノワール『ジャンヌ・サマリーの肖像』(1877年)



ところが彼女が密かにライバル視していたのが、サラ・ベルナールだというから驚きです(サラ・ベルナールについては、5月11日付記事「ミュシャ展」をご参照くださいませ)。

ジョルジュ・クレラン『サラ・ベルナールの肖像』(1876年)
(プティ・パレ美術館/パリ)



(※今回この作品は展示されていません)


ご覧の通り、全く違う個性をもつ二人の女優。SMAPの歌じゃないけれど、バラにはバラの、桜には桜の美しさがあり、他人と比べることは何の意味もないのですが、分かっちゃいるけれど、つい隣の美女の存在が気になってしまうのが女心ってものなんですよねぇ…


■ ロシアにフランス名画がある理由


今回のサブタイトルは「フランス絵画300年」。この300年は17世紀から20世紀を指します。エルミタージュ美術館にしろ、このプーシキン美術館にしろ、ロシアにはフランスの名画が数多く存在します。

ロシアは18世紀以降、当時先進国であったフランスに強く憧れ、エカテリーナ2世をはじめ歴代皇帝や貴族たちがその国力を示すために珠玉の作品を買い集めました。特に19世紀後半にはシチューキンとモロゾフという二人の大富豪が印象派を中心に作品を集め、自らの屋敷で公開していました。ところがロシア革命により貴重なコレクションは国有化され、これらの作品はエルミタージュやプーシキンといった美術館に収蔵されたのです。

この時代、特に印象派はフランス本国では評価が低かったので、手に入りやすかったのだと思います。ゆえにロシアやアメリカといった文化新興国がこぞって印象派の絵画を買い漁りました。その価値にフランスが気づいた頃は時すでに遅し。例えば、シカゴ美術館にある点描画の傑作、スーラの『グランド・ジャット島の日曜の午後』は、フランス政府が買い戻そうとしましたが、アメリカは手放さなかったとか。


■ 毛穴レスな美女たち


ドミニク・アングル『聖杯の前の聖母』(1841年)





『グランド・オダリスク』(3月20日付記事「ルーヴルの美女」をご参照ください)をはじめ、ハイビジョンもOK、毛穴レスな美女を描かせたらピカイチのアングルの作品。後のアレクサンドル2世がアングルに制作を依頼したもので、左に父ニコライ1世の守護聖人、右に自身の守護聖人を描き込ませたもの。



ジャン=レオン・ジェローム『カンダウレス王』(1859〜1860年頃)





妻の肢体の美しさに魅了されていたカンダウレス王は、自慢したい気持ちと倒錯した欲望に駆られ、臣下のギュゲスに寝室を覗き見して王妃の裸体の美しさを確認するよう強要します。ところがギュゲスは物音を立ててしまい、王妃に気づかれてしまいます。辱められた王妃は、覗き見の罪で処刑を受け入れるか、王を殺して自分と結婚するか二者択一を迫ります。(ギュゲスがどちらを選んだかは言うまでもなく)こうしてギュゲスは王位に就きましたとさ…というものすごいストーリーが隠された一枚。

ジェロームはアングルと同様、新古典主義の画家。主題といい、色彩といい、この作品もオリエンタリズムを感じさせます。


■ おぞましい脅迫


ジャン=フランソワ・ド・トロワ『スザンナと長老たち』(1715年)



レンブラントやティントレットをはじめ、多くの画家が同じテーマで描いている作品です。場面は、旧約聖書(ダニエル書)のエピソードで、貞淑なユダヤ人妻スザンナが老人たちに「自分たちと関係をもたなければ、若い男と浮気をしていると言いふらすぞ」という何ともおぞましい脅迫を受けている場面です。

まったくとんでもないエロジジイどもですが、ジジイの誘惑を拒絶するスザンナの姿が、中世においてはキリスト教の正義の象徴として好んで描かれました。ルネサンス期以降は、女性の裸体を描く口実として数多くの作品に取り上げられました。


■ レジャーのはじまり


  ピエール=オーギュスト・ルノワール『セーヌの水浴(ラ・グルヌイエール)』
(1877年)



1837年に鉄道が開通し、パリの人々はこぞって郊外に出かけるようになりました。セーヌ川沿いのこの場所は「ラ・グルヌイエール」とよばれた行楽地で、訳すると「蛙の住処(すみか)」という意味です。蛙とはすなわち労働者階級を表し、レジャー文化は過酷な日々の労働の気分転換として急速に発達していきました。ルノワールはモネとこの場所で作品を制作し、互いに同じテーマで数点の作品を残しています。


■ 絶妙な構図にため息


エドガー・ドガ『バレエの稽古』(1875年〜1877年)




ドガといえば、「踊り子」と「馬」。この二つのテーマを生涯に渡りしつこく(?)追求した画家です。この二つに共通しているのは、筋骨隆々とした肢体。これらについては絵画のみならず、彫刻でも数多くの作品を残しています。

ドガの魅力は計算し尽くされた構図の美しさにあると思います。オルセー美術館に所蔵されているバレリーナをテーマにした一連の名作も、緻密なデッサンを元に数々の場面を切り取って画面を構成しています。こちらの作品も、連なるように差し出された手の先に鑑賞者の視線が動き、画面奥に誘導されるように構成されています。うまいなぁ!と感嘆せざるをえない一枚です。


■ 報われぬ想い


フィンセント・ファン・ゴッホ『医師レーの肖像』(1889年)




ゴーギャンと見た夢が破綻し、神経症の発作で自らの耳を切り、入院したアルルの病院でインターンをしていた医師を描いた作品。ゴッホは感謝の気持ちを込めて彼にこの作品をプレゼントしましたが、彼は気に入らず、鳥小屋の穴を塞ぐのに使っていたとか。いやはや、ゴッホという人は、どこまでも不器用で、悲しいくらいに報われない人ですねぇ。でもそこが日本人にとってはたまらない魅力なんでしょうけど。


■ 間違いさがし?


アンリ・ルソー『詩人に霊感を与えるミューズ』(1909年)
(プーシキン美術館)




この絵を見たとき、一瞬自分がどこにいるのかわからなくなりました。…というのは、同じ作品をスイスのバーゼル美術館で見ていたからです。あれれ?これはバーゼル美術館所蔵のはず?と思い、調べてみたら、確かに作品は2バージョン存在し、バーゼル版が後で描かれたものだと分かりました。まだまだまだ知らないことが沢山あるなあ〜!

男性は、詩人のアポリネール、女性はその恋人で画家のマリー・ローランサンです。ちなみにアポリネールが所有していたのはバーゼル版だそうです。


アンリ・ルソー『詩人に霊感を与えるミューズ』(1909年)
(バーゼル美術館)





う〜ん、どっちが正解ということではないのですが、比べてみるという行為は間違いさがしのようですね。



余談ですが…

美術館内のミュージアムショップを物色していたら、見逃していた展覧会の図録を発見!その名も「白貂を抱く貴婦人」展。2002年に来日したレオナルド・ダ・ヴィンチの傑作ですが、こともあろうに見逃してしまったのです!行ってない展覧会の図録を買うなんて何の意味があるのかという声も聞こえてきますが、これはかなり私の中で上位にランクインする作品なので、研究のためにぜひゲットしたいところ。もちろん即買いしました。

というのも、このモデルとなった少女は…





詳しくは、またの機会に!


プーシキン美術館展 フランス絵画300年

      2013年4月26日(金)−6月23日(日) 愛知県美術館 終了
      2013年7月6日(土)−9月16日(月) 横浜美術館
      2013年9月28日(土)−12月8日(日) 神戸市立博物館

      http://pushkin2013.com


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2 件のコメント:

  1. 深い考察に充実した内容、陰ながら応援させて頂いてます。
    これからも定期的な更新を期待してます。

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  2. あたたかいお言葉、ありがとうございます♪
    いままで美術館などまったく興味がなかったという方が、行ってみようかな、と一人でも思っていただけたらこれ以上うれしいことはありません。
    わたしももっと勉強せねば〜!

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