2013年4月10日水曜日

The color story - Black -

今日は、美術館から少し離れて、色と映画のお話をしましょう。

もしも無人島に住めといわれたら、持っていきたい本が二冊あります。ひとつはサガンの「悲しみよ こんにちは」。もう一冊は「ティファニーで朝食を」。

この二冊は私が中学生の頃から愛読していて、何度読み返したかわかりません。当然、本はボロボロ。いずれも最近、新訳が出ていますが、どうもしっくりきません。愛着があるもうひとつの理由は、本の装丁。「悲しみよ こんにちは」の表紙は、ビュッフェ。我が家の居間には長年ビュッフェのリトグラフが飾られていました。「ティファニーで朝食を」の表紙は、オードリー・ヘップバーン。これは表紙に惹かれて買ったことを今でもよく覚えています。



「ティファニーで朝食を」は、映画の方がよく知られていると思います。ところが私は原作を先に読んだので、高校生になって映画を初めて見たとき、「何じゃこりゃ!」とがっかりを通り越して怒りを感じました。だいたい、原作では主人公のホリー・ゴライトリーと作家志望の語り手はあっさりくっついたりしないのです。そのちょっぴりドライな感じが何ともニューヨークっぽくって、かっこいいなあ…と思っていたのでした(高校生のくせに!)。

映画のもう一つのがっかりポイントは、原作では主人公のホリー・ゴライトリーは郵便箱の名札に「ミス・ホリデイ・ゴライトリー、トラヴェリング(旅行中)」と書いてある、というくだりがあるのですが、私がもっとも気に入っているこの箇所の描写が、映画ではカットされているのです。

飼い猫に名前は付けず「キャット」と呼び、家具はほとんど持たず、部屋の隅にはスーツケースがいつもあり(ここまでは映画にもある)…そして、彼女がいつも、誰からも、どんな環境からも、自由でいたいという気持ちの象徴として、名刺の住所は「トラヴェリング」。なんてかっこいいんだ!と、これまた熱く思っていたのでした。

…と、いうわけで、私の中ではかなり映画の評価は低かったのですが、この映画には別の魅力があると気づいたのは数年前のことです。

朝の5時、まだ静かな5番街に1台のタクシーが滑り込んでくる。車は57丁目の角のティファニーの前で止まり、明け方には似つかわしくない黒のドレスに身を包んだ一人の女が降りてくる。女は、手にパンとコーヒーを持ち、ティファニーのウインドウを覗き込みながら、店の前で朝食中。この静かな5番街の朝の情景が、いつの頃からかお気に入りのシーンになりました。



ここで世界中の女性を虜にしたのが、オードリー・ヘップバーンが纏っている「リトル・ブラック・ドレス」。そう、私が一目惚れして買った文庫の表紙のドレスです。シンプルなんだけど、凝った背中のデザインや、何連にも重ねづけしたパールのネックレス、顔の半分が隠れるくらい大ぶりなサングラス。

衣装を担当したのは当時まだ無名だったジバンシィでした。これ以降、オードリーはジバンシィのミューズと呼ばれるようになります。その他のシーンでも彼女が身につけている衣装のひとつひとつがシンプル且つエレガントで、50年以上前の映画なのに、どれも今身につけてもまったく古さを感じさせません。

映画の公開と同時に、瞬く間に世界中の女性がこの「リトル・ブラック・ドレス」(あるいはそれに似たもの)を買い求めたといいます。都会的でシャープな印象を与える黒のドレスは、まさに5番街のファーストシーンにホリー・ゴライトリーを登場させるにうってつけの衣装でした。黒の持つイメージキーワードは、高級感、暗黒、悲哀、絶望、孤独など。自由を謳歌しているはずの彼女が、なぜティファニーの前で朝食をとるのか、その答えも黒のメッセージに隠れている気がします。


もうひとつ、この映画の中では色にまつわるこんな会話が交わされます。

—You know those days when you get the mean reds?
(あなたにも気持ちが赤く沈むことがあるでしょ?)
—The mean reds? You mean like the blues?
(赤く?暗くだろ)

the blues を翻訳してしまうとこの会話の面白さが半減なのですが。






余談ですが、あまりにこのシーンのオードリーが可愛くて、思わずレプリカのアイマスクを買ってしまった私。レプリカといいながらもシルク100%で着け心地抜群。CAさんにギョッとされながらも、私の「トラヴェリング」には欠かせないグッズです。



数年前に本屋のアウトレット市で見つけたオードリー・ヘップバーンの本。彼女が出演した映画のチケットや台本から、子供が生まれたときの映画関係者への挨拶状の複製なども入って、ファンにはたまらない一冊。写真は、「ティファニーで朝食を」の原作者、トルーマン・カポーティからの書簡、脚本の一部、試写会の招待状。ちなみに、カポーティは、ホリー役をオードリー・ヘップバーンではなくマリリン・モンローにさせたかったというのは有名な話です。



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2 件のコメント:

  1. ところで、このアイマスクはJL751便&JL752便に同乗するんでしょうか?

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  2. もちろんです♪
    いつでも、どこにでも、一緒に旅立てるように常に準備しています。
    このアイマスクを手荷物に入れるときが、最高にワクワクする瞬間です☆

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